1980年代に「若者」だった世代は、学生のころに「消費文化」の一端に触れています。1990年代後半、30歳前後になった彼らは、今度は自分たちが主役になって「消費文化」を追求しはじめたのです。

 新卒学生の就職状況は、バブル崩壊後、厳しくなりました。けれども、そうなる前に「恵まれたところ」に就職した層は、それほどダメージを受けませんでした。不況になっても経費をカットされるぐらいで、賃金が減るような目には遭わなかったのです。このため30代に入るころには、学生時代よりはるかに多くの「自由に使えるお金」を手にしていました。

 さらに、1990年代後半の欧米は好景気に沸いていました。欧米コンプレックスの強い日本人は、彼の地におけるバブル的風潮によって、消費衝動を強烈に刺激されました。

 こうして、1980年代に青春を送った人々がおもな担い手となり、日本の「消費文化」は世紀末以後、新たに発展します。日本で飲める高級ワインは、バブル期と比較にならないほど多様になりました。男性ファッション界をクラシコイタリアが席巻しはじめたのもこの時期です。既製・仕立てを問わず、さまざまな「イタリア服」が紹介され、「アルマーニだけ着ていればいい風潮」は終わりました。

 しかし、2008年のリーマンショックによって、先進諸国の「消費文化」はいっせいに衰退に向かいます。欧米でもこのときバブル景気が終わり、いたずらにモノや金を消費するライフスタイルは、「時代おくれ」と見なされるようになりました。

「消費」ばかりをおもんじる姿勢が欧米で否定されると、欧米志向のつよい「日本のトレンド・ウオッチャー」もそれにならいます。リーマンショック以後、「消費文化」は日本でも、急速に「終わってしまったもの」扱いをされはじめます。

 小泉今日子は、「消費文化」の終焉にともなうこうした変動とともに「再浮上」しました。いったいそこにはどういう力学が働いたのでしょうか。

■小泉今日子の30代はなぜ地味だったのか

 小泉今日子は1966年生まれです。私の身近にも、「小泉世代」の女性がたくさんいます。彼女たちは、「カッコいい消費」を行うことにある時期まで執着していました。

 それを象徴するようなテレビドラマがあります。日本では2000年から2004年にかけて放映された『セックス・アンド・ザ・シティ』(以下SATC)です。アメリカでつくられたこの作品は、ニューヨークで「恋愛」と「消費」に生きる30代の女性四人組を描いています。

 私のまわりの「カッコいい消費」に憧れる女性たちは、軒並みSATCのファンでした。世紀の変わり目のころの先進諸国では、30代が「消費文化」の鍵を握っていた――そのことを、このドラマの登場人物のライフスタイルと、それに共感した多数の日本女性の存在は物語ります。

「消費文化」のなかで、「恋愛」には特別な意味が託されていました。二人乗りの輸入スポーツカーに乗る。高級ブランドの衣類や装飾品を贈りあう。評判のレストランでシャンパンを開ける――「カッコいい消費」を実践するには、カップルで行動することが最適です。

 一方、1980年代には、「男女同権を目ざす動き」によって社会制度が変わりました。日本では、1985年に男女雇用機会均等法が施行。「女性は専業主婦になるのが当然」という「常識」は急速に崩壊しました。

 このことは、時代の最先端で生きようとする女性たちをジレンマに追いこみました。

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