栗原康(くりはら・やすし)/1979年、埼玉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に『大杉栄伝 永遠のアナキズム』『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』など(撮影/門間新弥)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『超人ナイチンゲール』は、アナキズム研究者による痛快なナイチンゲール伝。上流階級に生まれたナイチンゲール(1820〜1910年)は30代になって看護の仕事を始め、クリミア戦争で国民的英雄となり、その後も医療と看護の改革に乗り出す。哲学者、山伏、精神科医らの言葉を引用しながら、講談を思わせる独特の語り口で波乱の生涯を追う。「ケアをひらく」シリーズの一冊。著者である栗原康さんに同書にかける思いを聞いた。

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 清く正しい「白衣の天使」が自立を求めて闘う女性だったとは。この本は子どもの頃に思い描いたナイチンゲール像を見事に壊してくれる。栗原康さん(44)は政治思想の研究者だが、なぜ異分野である看護師の評伝を書いたのか。

「アナキズムを勉強していて、相互扶助とか助け合いに前から関心がありました。相互扶助とケアには近いものがあるんじゃないかと思っていた時、編集者の白石正明さんに声をかけていただいたんです」

「ケア」を考えるシリーズの一冊としてナイチンゲールを書くことになったが、資料を読んでもなかなかエンジンがかからない。火がついたのは彼女が書いた小説『カサンドラ』を読んだときだった。

 ナイチンゲールは上流階級にふさわしくないという親の反対にあい、長年、看護師になれずにいた。その怒りを家父長制に向け、小説では夢を叶えられずに死んでしまう女性を描いている。

「女は自分のやりたいことがあっても台無しにされて、結婚して男を支えるのが幸せと思わされてしまうんだと。最後は捨て台詞のように『次のキリストはおそらく女性だろう』と書いている。すげえ、来た、この人、無敵じゃん」

 研究しているアナキストの伊藤野枝とも重なり、俄然、興味がわいてきた。

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