しかし、当時原発規制について協議していた与党民主党と野党自民党には共通の利益があった。自民党は原発利権を守りたい。民主党は最大の支持基盤である連合(電力総連など原発関連の有力な組合を傘下に有する)の支持を失いたくない。両者の思惑が一致して、原発を動かすために避難計画を規制委の審査対象外としてしまった。
避難計画を規制委の安全審査の対象外とすることは、極めて不合理である。
第一に、住民の避難ができない可能性があるのであれば、原発から放射能が漏れることは絶対に許さないという安全基準にしなければならない(それは原発を禁止するのと同義である)。
第二に、避難はできても時間がかかるということであれば、その時間が経過するまでの間は事故があっても放射能が漏洩しないような設計にしなければならない。メルトダウンは稼働中なら2時間で起きる。フィルターベント(事故の際、原子炉格納容器内の圧力が高まって破損する恐れが生じた場合に、フィルターを通すことで放射能の濃度を下げたうえで蒸気を外部に逃がす装置)で放射能を外に放出するまでの時間を長くするためには、格納容器や原子炉建屋の容積を大きくする必要がある。避難にどれくらい時間がかかるかがわからなければ、設計基準が決められないはずだ。
いずれにしても避難計画と設計基準は論理的に切り離せないのだ。
米国では、住民の避難ができないケースが想定されれば、原発の稼働は許されないという規制になっている。
現に、ニューヨーク州のロングアイランドに新設されたショアハム原発が、1984年に完成したものの、稼働直前になって避難計画に難ありという理由で稼働が許されず、一度も動かないまま廃炉にされた。東京電力柏崎刈羽原発や志賀原発と同じ沸騰水型の出力約80万キロワットで、建設コストは60億ドルにも上ったが、住民の安全の方が優先された。これが正しい原発規制のあり方だ。
日本の原発規制は極めて歪んでいる。原発再稼働が全ての前提になっており、再稼働の妨げになるものは、考慮しないということが平気で行われているのだ。規制委は、住民の安全を守るためではなく、原発を動かすことを第一目的とした機関となっている。これは、規制委ができた時からわかっていたことだ。