だが、日常生活は苦労の連続だった。宗教団体を辞め工場や介護施設に勤務するがうまくいかず、職を転々とする。39歳で哲学博士号を取得し、研究職をめざしたが叶わなかった。苦しみの中で言葉を吐き出したのは「X(旧ツイッター)」である。真摯な書き込みに目をとめた編集者から連絡が入り、執筆を勧められた。

「3カ月は書けずに呻吟しました。それまで論文は書いてきたけれど、論文なら自分を出さなくてもいい。でも本は自分を出さなくてはならず、そこで苦しみました」

 関野さんは「X」仲間に相談する。その時返ってきたのは「ローマ帝国時代の哲学者・神学者アウグスティヌスの『告白』みたいなものを書いたらどうですか?」というアドバイスだった。本書の第二章に当たるのがその「告白」である。苦しみに満ちた自分の来し方をさらけ出した文章は迫力があるが、対象を10代に設定していたこともあり、誰が読んでもわかりやすい。

「書き始めたら2カ月で全部書けてしまいました」

 さまざまな哲学者や文学者の言葉を読み解きわかりやすく綴った本書は、哲学入門として、また挫折した人間が「哲学する」ことを通じていかに生き直せるかを伝える記録として、胸に迫る。

「哲也」という名前は哲学からつけられたものだという。その名の通り、これからも一生かけてこの人は問いを立て、考え抜いていくのだろう。

(ライター・千葉望)

AERA 2024年1月15日号

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