地域への電力供給が止まることが心配されているわけではない。浜岡原発1号機、2号機は09年に運転を終了、廃炉に向けた作業が進んでおり、36年度までに作業を終える予定だ。ほかの3号機、4号機、5号機も停止中で、このうち3号機、4号機は再稼働に向けて、原子力規制委員会による審査が進んでいる。
そんな浜岡原発内には現在、使用済み核燃料約6500本が貯蔵プールで保管、冷却されている。
富士山が噴火して原発が電源を失い、核燃料の冷却ができなくなったとき、これらが深刻なリスクになりうるのだ。
火山灰が積もって電源供給に支障も
富士山の噴火は、浜岡原発にどんな影響を与える可能性があるのか。中部電力が18年1月に作成した資料「浜岡原子力発電所 火山影響評価について」(以下、「影響評価」)を見てみよう。
富士山から浜岡原発までの距離は約97キロ。過去の噴火の事例などをふまえて、富士山の火口からの火砕流や溶岩流、地滑りや新しい火口の開口、地殻変動による被害は想定されていない。懸念されているのは、首都圏と同様に「降灰」の影響だ。
富士山の上空では、主に偏西風が吹いている。降灰が懸念されるのは風下、富士山の東側の首都圏方向であり、浜岡原発は逆方向にある。「影響評価」では、富士山が最後に噴火した1707年の宝永噴火と同規模の噴出量を想定し、降灰量は3.4センチ程度、最大でも10センチは上回らないと予測している。
この評価について、日本大学の元教授で、同大自然科学研究所上級研究員の高橋正樹さん(火山地質学・岩石学)は、夏になると偏西風が弱まることをふまえて、
「最悪の風向きの場合には10センチ以上、16センチないし30センチの灰が降ることも考えられる」
と指摘する。
ただし、専門家の間では、富士山にたまっているマグマの量を推定したうえで、次の富士山噴火は宝永噴火と同規模の噴火にはならないという見立てが強いという。