特大サイズの新聞広告と猟奇的なタイトルにびっくりした人も多いのではないか。住野よる『君の膵臓をたべたい』。〈読後、きっとこのタイトルに涙する〉と帯のコピーが豪語する新人作家のデビュー作だ。
書き出しはズバリ〈クラスメイトであった山内桜良の葬儀は、生前の彼女にはまるで似つかわしくない曇天の日にとり行われた〉。
語り手の「僕」は高校2年生。友達も彼女もいない冷めた男子だ。その日、盲腸炎手術後の抜糸で病院にいた「僕」は、ロビーで『共病文庫』と題された文庫本サイズの日記を見つける。〈私は、あと数年で死んじゃう。それを受け止めて、病気と一緒に生きる為に書く〉。持ち主は同級生の山内桜良。彼女は重い膵臓の病気を抱えていた。家族以外には隠していた病気のことを「僕」に知られた桜良は、以後、彼に気を許し、あちこちに彼を引っ張り回す。食べ放題の焼肉店、スイーツバイキング、そして博多への1泊旅行。
ジャンルでいえば、まあジュニア小説ですかね。女の子が難病で死ぬと最初からわかっているという意味では、あの大ベストセラー『世界の中心で、愛をさけぶ』と同じタイプ。ひと頃流行ったケータイ小説のテイストもひきずっている。ただし「悲恋」といえないのは、2人が恋人同士ではなく友達ともいえず、「仲良し」という微妙な関係にあることで、このへんが今っぽいのかも。
ま、こういうのは中高生が涙してくださればいい本で、私ごときがとやかくいうことではないが、でもこの死に方はどうなんですかね。
ちょっとおもしろかったのは2人の焼肉屋デート。ギアラ、コブクロ、テッポウ、ハチノス……。はじめて聞く名に〈牛ってそんな面白い名前のパーツ持ってるの?〉と驚く「僕」。〈ちなみに膵臓はシビレね〉と答えるホルモン好きの桜良。それでこの子は〈私、火葬は嫌なんだよね〉とかいうしさ、焼肉屋で。
表題の意味はしかし、焼肉とは関係ありません。あしからず。
※週刊朝日 2015年7月31日号