「全く上達しないです(苦笑)。やっぱりちゃんと練習しなきゃダメなんでしょうけど。いつもぶっつけ本番で。お恥ずかしいですけど」
藤井と伊藤は同じ2002年生まれで、誕生日は藤井が7月19日。伊藤は10月10日。10月5日、第1局の前夜祭で、藤井は次のようにあいさつした。
「伊藤七段とは同い年なんで。あ、すみません、同い年ではなくて、いまは私が1歳上なんですけれども(笑)」
第1局時点で藤井21歳、伊藤20歳。足して41歳は史上最少で、絶後の記録となる可能性も高い。伊藤はずっと藤井と比較され、藤井について聞かれ続けてきた。
「もうそういうものとして、受け入れてはいます」
第1局と第2局の合間に、伊藤は21歳の誕生日を迎えた。そして藤井は最後に残された王座のタイトルを獲得。第2局の前夜祭、伊藤は藤井の方を向いてこう言った。
「藤井竜王は先日八冠を達成されまして、本当におめでとうございます」
場内は大きな拍手と笑いに包まれた。
伊藤は各対局場で昼食やおやつのメニューを渡され、長考を繰り返した。近年の将棋界では、対局者がなにを食べるのかも注目される。
「そういうのは意識してます。悩みますね、やっぱり」
北九州でおこなわれた第3局の2日目昼。藤井が地元のソウルフード「資さんうどん」を注文する一方、伊藤は名店のうな重を選んだ。どちらも美味しそうと、ネット上で話題になった。
「あまり味わう余裕がなかったんですけど(苦笑)。うなぎは美味しかったです」
(構成/ライター・松本博文)
※AERA 2024年1月1-8日合併号