トコジラミは「血糞」という血が混ざった糞を排泄する。天井や部屋の四隅に変なシミを見つけたときは、近くにお騒がせ虫が潜んでいるかもしれない(写真:大洋防疫研究所提供)
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 1センチにも満たない“お騒がせ虫”が、世界を震撼させている。年末年始、楽しいはずの海外旅行で、かゆ~い思いをしないためにも。AERA2024年1月1-8日合併号より。

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 不意に激しいかゆみが背中をおそった。慌てて駆け込んだ皮膚科では、「お年やからね」と塗り薬を処方された。

 かゆみはしばらくして治まった。が、すぐに再発。背中の赤い斑点は左右交互に場所を移しながら、20カ所以上にもなった。

 大阪府に住む男性(64)は言う。

「医者に通っても、ぜんぜん治らない。30代の娘の腕や脚にも赤い斑点が出て、これは年のせいじゃないと思いました」

韓国で「ピンデミック」

 ふと座椅子を見ると、小さな虫がついていた。ネットで調べ、トコジラミだと確信。急いで市役所に連絡したが、

「紹介された駆除業者には、立て込んでいてすぐに対応できないと断られたので、業者に教わった方法で殺虫剤を使って自分たちで退治しました」

 殺虫剤が効きづらい卵を駆除するため、熱処理用のスチーマーを購入。週末は丸一日かけて退治する生活で、トコジラミとの暮らしから抜け出したのは、最初にかゆみが出て半年以上が過ぎた頃だった。

 トコジラミはカメムシの仲間で、人の血を吸う。別名、南京虫。かつては日本でも生活圏に忍び込んでいたが、殺虫剤の普及とともに昭和の高度経済成長期に激減した。吸血されると強烈なかゆみに襲われる。体長5~8ミリで茶褐色。羽が退化しているため、人や物にくっついて分布を拡大させるのが特徴だ。

 そのトコジラミが、再び世界各地で広がっている。

AERA 2024年1月1ー8日号より

 2024年にパリ五輪を控えるフランスでは、23年10月、マクロン大統領の与党連合がトコジラミ問題を「最優先課題にする」と宣言。お隣、韓国でも目撃情報が多発。韓国語でトコジラミを意味する「ピンデ」とかけて、パンデミックならぬ「ピンデミック」と呼ばれるほどだ。

 だが、トコジラミは、すでに日本にも忍び寄っている。

「海外との行き来が止まったコロナ禍もトコジラミの相談件数に大きな変化はなかった。つまり、国外からの侵入がなくてもトコジラミはいるということ。殺虫剤が効かない“スーパートコジラミ”も確認されていて、今後も減ることはないでしょう」

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