会見では、その件について記者から指摘されると、兼重社長は、
「あの時、しっかりやっとけばよかったなという。ほんと反省してるんですけども。過去にその人間から何度も、工場長と仲間との確執に関する報告がありまして。今回もまたかと。もう仲良くやってくれということで、部長をすぐに調査に行かせて内容確認をしたところ、『仲良くやることになりました』という報告を受けたものですから。ま、『それで解決したな』と。それ以上のことはやっていなかったです」
と述べた。
副社長や、一部の店舗での店長、工場長によるパワーハラスメントが一部で報道されていることについても兼重社長は、「そういう認識がありませんでした」と答え、和泉専務取締役は、「現場で、副社長がパワハラと取られる行為を行っていたというのは、私自身は知りませんでした」と述べた。
自動車整備士の給料は薄給
今回の不祥事や会見での兼重社長の対応を受け、都内にある自動車整備士を養成する専門学校の採用担当の関係者は、
「いや、すごいですね。自分は辞めて逃げちゃうわけですから。今後、生徒にこの会社を紹介することはないですね。(生徒)本人がいきたいと言っても止めます」
と憤りを見せた。
これまでこの学校にはビッグモーターの求人票が届いていたが、前出の関係者は「あまりいいうわさは聞かなかった」と語る。
「実はこれまでうちとしても、(ビッグモーターを)良い就職先としては進めていなかった。他と比べて仕事が忙しく、きつい、とか、すぐ辞めてしまうとか聞いていましたから。全く経験がないのに若くして工場長をやっている人もいて、どういう企業なのかとずっと疑問には思っていました。給与事情もそこまでよくはなかったです」(学校関係者)
そもそも自動車整備士の給料は薄給だ。
2021年度版の自動車整備白書によれば、自動車整備士の平均年収は398万円で、9年連続の増加となった。一方、2020年度の国税庁の調査によると、民間の給与所得者の平均年収は433万円。自動車整備士の年収は平均を下回っている。
自動車の保有台数は年々増加しており、国土交通省の自動車輸送統計年報によれば、軽自動車は1980年代から右肩上がりで、2021年度では3320万台となった。
自動車整備業界は年収が低い理由の一つとして、もうかりにくいビジネスモデルであることが挙げられる。
「私も整備士として民間の整備工場で数十年働いていました。整備工場での主な収入は車検整備で、高いと言われる車検の金額も、本当はそんなに高くないんです。半分くらいは税金や保険料で取られてしまう。差し引いたら、民間の整備場に残るお金なんて数万円。一方で、1台の車整備にかかる時間はどんなに早くても3時間。もっとかかる車もある。時間がかかるのに残るお金は少ないんですよね」(学校関係者)
こうした一連の背景を踏まえ、学校関係者は最後に、
「一連の騒動のせいで、自動車整備業界などに対し、『どこも悪いことしているんじゃないの』といった印象を持つ人が増えてしまっているはずです。せっかく業界を変えようと取り組んでいる企業さんがあるのに、やるせない気持ちです」
と憤りを隠せない様子だった。
(AERA dot.編集部 板垣聡旨)