小1のとき。野球盤が欲しかった。母が言った。

「大きい靴下がないともらえないねぇ。自分で作ったらいいじゃないの」

 私はバスタオルを2枚重ねて、靴下形に切り、プレゼントが入るように縫った。

「よく出来てるね。紐をつけてあげる」

 母が大型の靴下に紐をつけてくれて、ベッドにつるした。その日は12月20日だった。

 その日帰宅した父が言った。「ほー、野球盤か。サンタさんからもらえるといいな!」

 楽しみに待っていた12月25日の朝。

 靴下にはなにも入っていなかった。

 泣いた。泣いた。泣き続けた。そのあと父とオモチャ屋に行ってゼットンのソフビ人形を買ってもらったような記憶。世界中をお前の火球で焼き尽くしてくれ、ゼットン。

 この話を所帯をもってから家内にしてみた。

私「このことについてどう思う?」

妻「なにが?」

私「状況として……まずくないかな?」

妻「どうして?」

私「……野球盤がめちゃくちゃ欲しかったオレ。靴下作りをすすめ手伝ってくれた母。もらえるといいな!まで言った父。しかも5日前から支度は済んでいたという事実……」

妻「悔しかったでしょうね」

私「そりゃ悔しかったよ!!!」

妻「辛かったわね」

私「辛かったよ!!!」

妻「あんたじゃないわよ。お義母さんもお義父さんも」

私「なんでだよ!?」

妻「可愛い我が子のところにサンタさんが来なかったんだもの」

私「…………?」

妻「『どうかこの子に野球盤をください』って祈ってたと思うよ、二人とも」

私「はぁ?」

妻「信じてたのよ。お義母さんもお義父さんもサンタさんが来るのを……」

 我が妻はえらい。この一言で長年の胸のつかえが取れた。そうだ、オレのところには来なかったのだ。サンタさん。

 ということで、大事なことですからもう一回言います。

 サンタさんは……いますっ!!!

 そのかわり、来ないこともあるっ!!!!

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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