6年目に情報システム室が分社化され、新しくできた西部ガス情報システムへ出向した。グループ外の仕事でも稼げとの指示を受け、いくつかパッケージソフトづくりに挑戦した。最初は寺の檀家管理用ソフト。「業務が極めて楽になります」ということで「極楽」と名付けた。また、語呂合わせが顔を出し、職場に笑顔が湧いた。
二日市温泉にも寄った。子どものころ、よく入ったのが銭湯風の湯で、料金は10円。髪を洗う蛇口がないので、桶に湯を入れて洗う。みんなが髪の毛を洗うと、湯がなくなった。そんなことも、思い出す。
社長になって4年目の2022年10月、グループの人材を育成するプロジェクト「ソウゾウ大学」を開校した。ソウゾウは創造と想像だ。
若手が半年間新規事業を考えて実際にやらせてみる
参加するのは30代前半までの約20人で、5グループに分かれて小さな新規事業を考える。半年間、週に一度のペースで議論し、まとまった提案から一つ選び、基金から500万円を出して実証実験を始めさせる。
1期目に、選ばれたのは「急速冷凍サービス」の案で、冷凍に向いているパンに対象を絞って、福岡市のパン屋の協力を得て実証実験に入った。この12月に選んだ2期目の提案は、保育サービスの分野。母親1人が育児の負担を背負い込むのではなく、誰かの協力を得ながら自分の時間もいかすことを目指す。
もちろん、新規事業を軌道に乗せるのは、難しい。様々なアイデアで生まれたスタートアップ企業で、10年後に成果を出しているのは、ごく一部に過ぎない。でも、過去の成功体験の上に座り続けていたら早晩、新しい挑戦者に抜かれ、置いていかれる。それでは、トップの責任は果たせない。心の中で「儲からなくても、みんなのモチベーションを上げられればいい」と思っているのは、そのためだ。
挑戦する意欲とともに、そこに笑顔があふれてほしい。仮にうまくいかなくても、「自己責任」はプロジェクトを始めた社長の自分にある。『源流』が、そう教えている。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2023年12月25日号
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