二日市温泉の雰囲気に長い歴史を感じる。建物も入り口も、昔の風情を残す。両親とよくきたし、友ともやってきて、遊び場の一つだった(撮影/山中蔵人)
この記事の写真をすべて見る

 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA 2023年12月25日号では、前号に引き続き西部ガスホールディングス・道永幸典社長が登場。

【写真】この記事の写真をもっと見る

*  *  *

 小学校5年生のとき、理科の実験の授業参観で、忙しい農作業の合間に駆けつけてくれた母を喜ばせようと、ある親からの質問に当意即妙に答えたら、爆笑を誘った。母は親たちに「息子さん、頓智がきいとうね」と褒められて、みたこともない笑顔になった。人を笑顔にする楽しさ、それを知った瞬間だ。

 大学時代の日々は、やり直せるなら、やり直したい。九州大学経済学部へ通い、麻雀ばかりしていたが、もっと学生らしさで充実した時間にすればよかった。自宅から通学し、帰ると高校や中学のときの仲間と遊んでいた。下宿をしていた学友のほうが新しい友だちができて、世界が広がる。だから、息子が同じ大学へいったときに「家を出て1人で住め」と言ったら、息子は充実した学生生活を送ったようだ。少し妬ましかった。

 でも、高校時代は、燃え尽きた。福岡県立筑紫丘高校で自由を満喫。それは「人の勉強の邪魔をしなければ、やりたいことをやっていい。でも、結果は自己責任だよ」という校風が、もたらしてくれた。道永幸典さんがその高校時代の日々を、ビジネスパーソンとしての『源流』だ、とするのも頷ける。

 企業などのトップには、それぞれの歩んだ道がある。振り返れば、その歩みの始まりが、どこかにある。忘れたことはない故郷、一つになって暮らした家族、様々なことを学んだ学校、仕事とは何かを教えてくれた最初の上司、初めて訪れた外国。それらを、ここでは『源流』と呼ぶ。

変わっていない校庭 運動部の面々がいて自分はいなかった

 ことし10月、福岡市南区の筑紫丘高校を、連載の企画で一緒に訪ねた。卒業して47年余り。正門への道は変わっていたが、広い校庭は半世紀前と同じだ。サッカー部、野球部、ラグビー部の面々が、それぞれのボールを追っている。建物の一部が改築中だったが、歴史と伝統を感じさせる校舎。青春の思い出を刻むには、文句ない場だ。

 でも、自分は、ここにいなかった。部活はやらず、通学に使うことが許されていたオートバイで、仲間と校外へ出て、楽しみ尽くす。母は「地域で一番のこの高校へ、いってほしい」と願った。それが分かっていたので、いちばん勉強したのが中学校3年生のときだ。そして好きなように過ごした3年間、「結果は自己責任だ」と学んだ。

次のページ