財布が返ってくる国

役所:僕は赤が印象的な「TRIANGLE」。実は作者の田村奈穂さんを子どもの頃から知っているんです。巨匠たちのなかで一番若手でもあり、今後が楽しみな作家だと思います。

──映画には昭和の雰囲気漂う飲み屋やアナログレコード店など、どこか懐かしい風景も映る。監督にとって久しぶりの東京は変化していたのだろうか?

ヴェンダース:憶えている風景を見つけることは難しかったです。スカイツリーの建築中を全く見てなかったので「え? こんなのなかったよ? いつの間に!?」と思ったり(笑)。東京は変化し続ける街です。同時にとても人が住みやすい都市だと思います。街の中で安心して浮遊するように移動できる。パリやローマ、ベルリンではそんなことはあり得ません。常にポケットに気をつけていなければならない。特にローマは危ない。バイクが横を通ったらもうバッグがなくなります。東京は本当に驚くほど安全を感じます。

役所:たしかに財布を落として返ってくる国は日本以外にあまりないかもしれませんね。まあ、すべては返ってこないかもしれないけれど。

ヴェンダース:でも奇跡はいろんなところで起こるものです。東京は奇跡の数が多い街だと僕は思っています。

役所:世界にそう思っていただけるように、我々もより良いところを目指さないといけないですね。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2023年12月25日号

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