役所:実際には公共の場を汚す日本人もいるので耳が痛くはありますが(苦笑)、でも監督や世界の人たちが日本人をそう思ってくれているのはやはり嬉しいですよね。

ヴェンダース:たしかにちょっと理想化しすぎているかな、と思うところもありますが、これは敬愛する小津安二郎監督の影響が大きいかもしれません。平山という名前は「東京物語」での笠智衆さんの役名なんです。それだけでなく小津の遺作「秋刀魚の味」での役名も平山です。ある種、彼らのレガシーを引き継ぐ思いも込めました。

日本という国の高潔さ

──ヴェンダース監督は1983年に来日し、小津を探す旅を記録した「東京画」(85年)で笠智衆さんにインタビューしている。「夢の涯てまでも」(91年)では役者として起用した。

役所:僕は俳優になりたての頃、「笠智衆さんのような俳優になりたい」と言い続けていたんです。平山という人物はたしかに笠智衆さんを彷彿とさせます。どこか清潔さを感じさせるというか、ある種、日本人を代表するキャラクターなのかもしれません。

ヴェンダース:日本という国の高潔さ、みたいなものを体現していると感じます。

──ところで17作品のトイレのなかで、どれがお気に入りだったのだろう?

ヴェンダース:選ぶのは難しいですが安藤忠雄さんの「あまやどり」、コンクリートの扱い方が素晴らしい片山正通さん(Wonderwall(R))の恵比寿公園トイレ。そしてやっぱり楽しいのは坂茂さんの透明なトイレかな。ちょっと勇気がいるかもしれませんが信頼すれば、安心して光に包まれるような体験ができるんです。用を足さなくてもちょっと考え事をするのに最適だと思います。実際、僕もそこに座って次のカットについて考えたりしました。

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