スパンコールのついた衣装に身を包んだマシャさん。この服は店長からのプレゼントだという(撮影/羽根田真智)

社交ダンスの達人は「亀梨君」ルックで

「僕の場合、ソウルとかあまり詳しくなく、大ヒットした曲しか知らない。純喫茶みたいで懐かしいな、と思ったのが始まり」

「KAT-TUNの亀梨君が買ったって聞いたら、僕も買うか、と思っちゃう」と話すマシャさんの衣装は、おしゃれそのもの。しかも披露するのは、くるくるくるっと回転し、優雅に手を動かし、全盛期の郷ひろみを彷彿とさせるダンス。20歳前から社交ダンスをやっており、大会への出場経験多数という社交ダンスの達人だ。

 だがマシャさんは、ディスコには、社交ダンスにはない魅力があるという。

「社交ダンスはお酒を飲んで踊ったりしたら怒られちゃうけど、ディスコは気楽にやっても大丈夫。しかもね、敷居が高いと行くのが面倒になるけど、ここは歌って踊って楽しもうというノリの人が来るんです。人生を冷静にみられるようになった人が集まっていて、男女関係なくフレンドリー。いろんなところで遊んだけど、今はここだけ。19時や19時半くらいには行って、4時間くらい踊っています」(マシャさん)

 60代にもなると、ウォーキングも毎日すれば膝や腰が痛くなる。週2回、踊って汗をかくくらいがちょうど良い運動。

ミラーボールがまわり、シャボン玉も舞う。モニターには、アメリカの音楽とダンスのパフォーマンス番組「ソウル・トレイン」(1971〜2006年)が流れていた(撮影/羽根田真智)

シニアにとっては生存確認

 店に行けばみんなに会えるというのもいい。

「6〜7割は毎週顔を合わせているんじゃないかな。ひとつの生存確認ですね」(マシャさん)

 1974年生まれの女性は、団塊ジュニア世代で就職氷河期経験者。学生時代は受験勉強で忙しく、就職してからも給料に余裕はなかったため、ディスコなどという華やかな遊興とは無縁だった。

 しかし、初めて一人で「Lover’s」に足を踏み入れたその日から、ディスコのトリコとなった。現在、ディスコが営業する土曜日には万難排し、好きな酒も控えめにし、膝上20センチのワンピースで踊りに行っている。なぜか。DJ☆Sさん、マシャさんという常連お二方が評したように、「ただただ気楽で楽しいのです」ときっぱり。

「男女の物語も、たくさんありますよ」(北島さん)

 ある男性客が、その日は座ったまま、ダンスフロアを眺めていた。いつもはカップルで来店していたが、その彼女が急逝。最後に踊った日を思い出していたのかもしれない。

 45年前に(別の)ディスコで知り合って結婚し、記念日を迎えるにあたって、ディスコを探し求めて2人でLover’sに来たという夫婦もいる。

「結婚式も葬式もやりましたよ。葬式では、僕がDJをやって、故人が好きだった曲をかけて懐かしんで、思い出話を語ったりして……」(北島さん)

 人生100年時代。定年退職しても、配偶者をなくしても、まだまだ道程は続く。

 青春時代に愛した音楽を楽しみ、人とのつながりを感じ、体を動かせるディスコは「人生の楽園」なのかもしれない。あなたもタイムマシンに乗り込み、楽園に足を踏み入れてはどうか。

常連客曰く、「一度行くとまた行きたくなる」。「毎週来ている」「土曜は皆勤賞」と言う人も(撮影/羽根田真智)

(ライター 羽根田真智)

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