「食べる楽しみ」を尊重しよう

 消費者庁が2018、19年の2年間の窒息事故を調べたところ、モチを詰まらせて亡くなった人は80代が最多で、男性は女性の2.6倍多かった。五十嵐医師は男性が早く多量に食べる傾向にあることが原因の一つであると指摘している。また、日本人は国際的に見ても窒息による死亡者数が多いことで知られており、これは高齢化や食文化の影響が関係ありそうだ。

「高齢の人のほうが文化や風習を重んじる傾向があり、また長年モチを食べ続けてきたという自負を持っていることを踏まえると、価値観に反してモチを食べるのを控えるよう求めることは現実的に難しいのではないでしょうか」と五十嵐医師は推察する。

 なぜ毎年事故が報道されているにもかかわらずモチを食べるのか、と思ってしまいがちだが、そこには日本独自の正月の風習や、高齢者特有の複雑な胸中が隠れているものだ。

 過度な心配により、食べる楽しみを損なってしまうことは望ましくないだろう。そこで本人や家族ができる対処法としては、できるだけ小さく切っておくこと、よくかんで食べること、お茶で口を湿らせることなどが挙げられる。最近は食品メーカー側も工夫しており、のどに詰まりにくいモチを開発しているので、選択肢に入れてみてもいいだろう。

「何歳になっても、正月だからモチを食べたいというニーズは根強いと思います。いろいろな商品も使いながら、各家庭で工夫していけるといいですね」(五十嵐医師)

(文/酒井理恵)

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