「声を出せなければ、気道が開通していないということなので、窒息していると判断し、咳をするよう促します。応急手当については2020年に日本蘇生協議会の蘇生ガイドラインが変更になり、以前は背部叩打と腹部突き上げ法の順番は決まっていなかったのですが、腹部突き上げ法は多くの合併症も報告されていることから、直感的で手技も容易な背部叩打が第一選択となりました」と五十嵐医師は言う。

背部叩打(イラスト:日本医科大学医学部 佐野 舞)

 腹部突き上げ法(以前はハイムリック法と呼ばれていた)のやり方は、まずは傷病者を後ろから抱えるように腕を回し、次に、片手で握りこぶしを作り、親指側を傷病者のみぞおちとへその間に当てる。そして、もう一方の手で、こぶしを包み込むように握り、素早く手前上方に向かって、圧迫するように突き上げる。腹部を圧迫することで胸部全体の圧が高まり、気道内の異物の除去に効果的だ。

腹部突き上げ法(イラスト:日本医科大学医学部 佐野 舞)

 ただし、腹部に強い圧力がかかるので、妊婦や1歳以下の乳児に行ってはならない。また、ある程度の力が必要なため、高齢者が行うのは難しいかもしれない、と五十嵐医師は指摘する。その場合、掃除機で吸い出す方法も一考の余地がありそうだ。

「ガイドラインに載っていないので第一にすすめられる方法ではありませんが、各家庭にあり吸引力が強く誰でも簡単に扱えるので、どうしてもの場合に有効な手段であると考えられます。確かにのどの奥をついてしまうことによる合併症のリスクは無視できませんが、まず大事なのは救命することです。掃除機で実際に救命されたという報告も少なくありません」(五十嵐医師)

 反対に、絶対にやってはいけないことがある。それは、見えていないのに口の中に手を入れてモチを取り出そうとすることだ。

「さらに奥へ押し込んでしまう可能性があること、強い力でかまれてしまうことがその理由です。明らかに口の中に見えている状態なら取りますが、何も見えない状況で指を突っ込むことは絶対に避けてください。同様に、窒息した場合は水を飲むことでさらに奥に入ってしまい状況を悪化させてしまう可能性があるので、声が出せない状況なら、とにかく異物を除去することを心掛けてください」(五十嵐医師)

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