「住職の言い値なので、いくらでもありえます。ただ同然のところから、びっくりするような値段まで。平均は取れません」(垣谷さん)

夫婦別姓の問題も

 ところで、物語の中では、結婚を間近に控えた男女が、名字をめぐってすれ違う場面がある。「選択的夫婦別姓」の問題を、「お墓」の話に盛り込んだのには、深い理由があると垣谷さんは言う。

「結婚すると男性の名字を名乗らされる女性が96%います。昔からほとんど変わらない。女2人姉妹や、女1人っ子の家の名字がそれで消える。夫婦別姓でどちらも残っていれば、お墓はどちらも残るけれど、(現状では)女の家の方の墓ばかり消えていく。その不公平さに、もしかしたら男が気づいてないのかなって」(垣谷さん)

『墓じまいラプソディ』の物語の救いは、61歳の女性主人公・五月(さつき)が、因習や古い常識にとらわれない、合理的思考の持ち主であることだ。五月の言動に、はっとさせられ、迷う背中をドンと押してくれるような爽快感がある。その姿勢はどこか、垣谷さん自身の考え方にも繋がっているようだ。垣谷さんは、自身の遺骨を「ゴミ箱に捨ててもらってもいいぐらい」と笑って言い放った。

「最もお金がかからない、簡単な方法を考えているところです。元気なうちに遠慮なく、死んだらどうしてほしいかを話し合っておくべきです。遠慮なく、自分の姑だろうが、『死んだらどうしますか』って聞いた方がいいと思います」(垣谷さん)

お墓は戦後のブーム

 地方の過疎化と少子高齢化は、「墓守」の不足を加速させている。宗教学者の島田裕巳さんは、骨を引き取って墓に埋葬するという習俗自体、戦後の高度経済成長期以降に広がった一種の“ブーム”だったと話す。

「ブームというものは残念ながら必ず終わる。その結果が『墓じまい』です」(島田さん)

 それまで供養の基本は仏壇に祀る位牌だった。戦後、地方から大都市への人口の流入が進み、都市では火葬が主流であること、墓石となる石材の輸入が可能になり石材の研磨技術も上がったことなどが「お墓ブーム」へと繋がったと島田さんは見る。

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