死んだら私はどうなるの──。『老後の資金がありません』など、現代社会が抱えるさまざまな問題に奮闘する人間ドラマを描く作家の垣谷美雨さんと、宗教学者の島田裕巳さんに話を聞いた。AERA 2023年12月18日号より。
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「絶対にお父さんと同じお墓には入りたくない」
四十九日の法要を控えた頃、突然明らかになった亡き義母の遺言。作家・垣谷美雨さんの新作『墓じまいラプソディ』(朝日新聞出版、12月20日発売予定)では、その遺言をきっかけに、家族や親類を巻き込みながら、お墓をめぐるさまざまなハレーションが勃発していく。
せっかく立派な「先祖代々の墓」を建てたのに、「樹木葬」を望むなんて!
いやいや、必死の形相で告げてきた義母の遺言を無視するわけにもいかない。
そもそも妻が将来入る墓は、知らない縁者ばかりの夫の墓になるの?
女の子ばかりの次世代で、将来の「墓守役」は誰が担うの?
普段、つい見ないフリをしてしまいがちな「お墓」「家族」の諸問題。親子、夫婦、きょうだい、結婚を控えた男女、都会と地方……。垣谷さんは軽妙な筆致ながら鋭くメスを入れている。
とにかく自分は樹木葬
「日本じゅうで『墓じまい』が話題になっていて、テレビでは『樹木葬』のことを何年も前から取り上げています。私自身は科学で証明できないことは何も信じず、死生観にはまったく興味がないけれど、少子高齢化の進むなか、『墓じまい』は関心が高いと思います」
垣谷さんはそう語る。
執筆にあたって取材を進めるなか、垣谷さんが意外に思ったことがある。それは、占いを信じる人は多いのに、神仏のことはほとんどの人が信じていないことだ。
「お墓なんかどうだっていい。そう考える同年代の女性がすごく多い。息子がいようが、跡継ぎがいようが、とにかく自分は『樹木葬』で、と考える人が増えている。意外でした」(垣谷さん)
物語の中には、遠い地方の寺にある墓を東京の墓に移そうとする事例が登場する。元の墓から出るための「御魂(みたま)抜き」が30万円、檀家を離れる際の「離檀料」が150万円。お寺の住職にとって「墓じまい」は死活問題であることは承知しつつ、見えぬものに払う金額の高さに驚愕する。