この種の歴史読み物としては、ありえないほど売れている本である。原田伊織『明治維新という過ち』。サブタイトルはなんと「日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト」。
 いうことが、ともかく過激なの。勤皇志士とは〈現代流にいえば「暗殺者集団」、つまりテロリストたちである。我が国の初代内閣総理大臣は「暗殺者集団」の構成員であったことを知っておくべきである〉。
〈長州テロリストが行った多くの暗殺は、その残虐さにおいて後世のヤクザの比ではない〉〈彼らは、これらの行為を『天誅』と称した。天の裁きだというのである。これは、もともと「水戸学」の思想に由来する。そして、自分たちが天に代わってそれを行うのだという。もはや狂気と断じるしかない〉
 私たちが学校で教わった、あるいは小説やドラマを通じて刷り込まれた近代の幕開けとしての維新の歴史がことごとく覆される爽快感。
〈豊かな教養環境とはほど遠い下層階級から政治闘争(実際には過激なテロ活動)に身を投じた彼らは、俄か仕立ての水戸学だけを頼りに「大和への復古」を唱えて「廃仏毀釈」という徹底した日本文化の破壊を行った挙句に、今度は一転して「脱亜入欧」に精魂を傾けたのである〉
 そういわれると、たしかに彼らはクメール・ルージュやタリバンや文革時代の紅衛兵と同類に思えてくる。著者はしかも彼ら長州テロリストの発想が、山県有朋らを通じて旧日本軍に伝染し、先の侵略戦争にまで直結しているというのだ。
〈平成日本は今、危険な局面に差しかかっている。彗星の如く国民の不満を吸収する政治勢力が現れるのは常にこういう時期であり、それが正しい社会の指針を提示することは少ないのだ〉。そ、それは……。
 もっか違憲の疑いが濃い安保法案のゴリ押しに邁進する安倍晋三首相は山口4区、高村正彦自民党副総裁は山口1区の選出だ。それとこれとは関係ない? だとは思うが、でもあまりに感じが似ていてさ。

週刊朝日 2015年7月3日号

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