作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。
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モーニングルーティンという言葉があります。朝起きてから必ずやることを収めた動画投稿を、SNSで見たことがある人もいるでしょう。
私のそれはひどいものです。朝起きたら水を飲んでトイレに行き、寝ぼけ眼でマッサージチェアに15分ほど乗ります。次にスマホへ手を伸ばし、SNSやメールをチェック。慌ててシャワーを浴び、濡れた髪の毛をゴムで縛ってTBSへ。これが月~木。ちゃんとした朝ご飯を家で食べることはありません。
金曜日はラジオの生放送がないため、少し遅めのスタート。内容はだいたい同じです。土日は予定がない限り、同じことを午前中のうちに済ませられたらラッキー。朝ヨガをしたり、観葉植物に水をやったり、丁寧にコーヒーを淹れたり、お弁当を作ったり、オンラインで何かを学んだりなどの朝活もまったくございませんので、映えるポイントはゼロ。寝る前のルーティンも、朝の動画を逆再生したかと思うほどにほぼ同じ。
月~木のラジオ番組「生活は踊る」では、「ルーティンをワクワクに」というテーマを掲げています。毎日の繰り返しを少しでも楽しいものにするための情報をお届けしたいという志です。しかし、私のルーティンがまったく踊っていないことに気づいてしまった。だって、朝は一秒でも長く寝ていたいんだもの。新しいものを差し込むすき間などない。
そこで、このままワクワクを増やす方法がないかと考え、ボディーソープを3種類に増やしました。我ながら即物的で非常に好ましい判断です。
これが意外と功を奏しています。朝の気分で洗浄剤を変えるだけなのに、なんだか楽しい気分になる。調子に乗って、洗う道具も3種類に増やしました。ガーゼタオル、ナイロンタオル、柄の長いブラシ。3×3で9パターン! 風呂場は雑然としますが、一人暮らしなので気にしません。
ルーティンのなかに「非ルーティン」を採り入れると、リズムを崩さずマンネリを回避できる。選択肢が増えるとメンタルに負荷が掛かるとばかり思っていたけれど、そうとは限らないという新たな発見でした。どれを選んでも、結果がたいして変わらない点も好ましい。
ルーティンの選択肢を増やす方法、毎日の活性化とまでは言いませんが、自分を飽きさせない手段としてオススメです。
○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中
※AERA 2023年4月3日号