もちろん、そうは言っても『有吉弘行の脱法TV』は2023年放送の地上波テレビ番組であり、厳しい縛りは存在する。しかし、この番組では、その限界を探るという体裁を取ることで、限界を超えられるかもしれないという淡い期待感を視聴者にもたらすことに成功した。ここが斬新であり、同時に懐かしくもあった。

 たとえるなら、高度な人工知能にピカソの絵を描かせたり、ビートルズの曲を作らせたりするようなものだ。それは決して過去にあった本物と同じではないが、それに近い何らかの印象を与えることはできる。そういうやり方でしか、この壁は超えられないのかもしれない。

有吉弘行による批評的な営み

 さらに言えば、裏のテーマとしては、さまざまなアプローチで地上波テレビの限界に挑戦することで、明文化されていないルールの曖昧さや空虚さを浮き彫りにしていた。「批評芸」の天才である有吉がMCを務めて、テレビ批評を真正面からやっている。これをテレビ番組という枠の中でやること自体が、きわめて批評的な営みでもある。

「地上波テレビでは攻めたことができない」「ネット配信の方が自由だ」「YouTubeの方が自由だ」「いや、それらにも別の不自由さはある」といった議論は、すでに一通りやり尽くされている感がある。

 そんな中で『有吉弘行の脱法TV』は、何かと低く見られがちな地上波テレビの現状に新たな一石を投じるものだった。「できないならやめておこう」ではなく、「どうやればできるんだろう」「どこまでならできるんだろう」という姿勢で臨むこと。それはこの番組の表向きのコンセプトであるだけではなく、実際にこの閉塞感を打破する1つの手段でもあるのではないか。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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