ヨルダン川西岸にイスラエルによって作られた分離壁(Alamy/アフロ)
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 パレスチナ自治区を実効支配するイスラム組織「ハマス」とイスラエルの戦闘はますます過酷になっている。この根深い対立については、「ハマス」・イスラエルの関係にとどまらず、イスラム世界の中での対立も関係してくるという。なぜ対立が続くのか、戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんの『新版 中東戦争全史』(朝日文庫)から、一部を抜粋、再編集して紹介する。

【図】ヨルダン川西岸の分離壁を見る

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イスラエル人を標的とする自爆攻撃の増加と「分離壁」の建設

 二〇〇一年九月一一日にイスラム過激派組織「アルカーイダ」が引き起こしたテロ攻撃の政治的余波は、直接的にはイスラエルとパレスチナには及ばなかったが、それはイスラエルの「平和」を意味しなかった。

 旅客機による体当たり攻撃と同種の「自爆テロ(実行者側の用語では『殉教攻撃』)」が、イスラエル国内でもパレスチナ人の実行犯によって繰り返されていたからである。二〇〇一年だけで、一〇〇人を超えるイスラエル人が自爆テロの犠牲となったが、イスラエル政府はその対策に頭を悩ませていた。銃などの武器を持たず、逃走経路も必要としない「殉教攻撃」の実行犯を、通常の警備体制で取り締まることは困難だった。

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短時間に乗り越えることが不可能な分離壁