専門家が撮影した「ヒグマの土饅頭」。エゾシカの死がい上に、ササなどがかぶせられている=帯広自然保護官事務所提供

 ヒグマは、捕らえた獲物の死がいに隠した後も、しばらく近くにとどまる習性があるという。

「シカやキツネだけでなく、家畜や人間に対してもそうです。わざわざササを噛み切って、置く場合もあります。それは『自分のものだよ』という印です。クマは自分の獲物に固執しますから、人間が近づいても絶対に逃げません」

 土饅頭からは強烈な腐敗臭がするため、離れていてもその存在に気づくという。

 しかし、興味本位で近づいてはいけない。近くにクマが潜んでいれば、襲われる可能性が高いからだ。
 

クマにつけ狙われた福岡大生

 登山者がヒグマに襲われて死者が出たのは、1970年に起きた「福岡大ワンゲル部ヒグマ襲撃事件」以来、約半世紀ぶりである。

 当時、日高山脈を縦走していた若者5人は、食べ物に執着するヒグマの習性を知らなかったために、繰り返しヒグマに襲撃され、3人が亡くなった。

 事故報告書によると、福岡大学ワンダーフォーゲル同好会のパーティーが入山したのは7月14日。日高山脈北部から南へ向けて、縦走を開始した。

 23日、主峰・幌尻岳を通過し、さらに南下。ヒグマと遭遇したしたのは夏合宿の終盤、25日夕方だった。

 夕食後、全員がテントのなかでくつろいでいると、6~7メートル先にヒグマがいるのを見つけた。しかし、緊迫感はない。

「みな、珍しがって見たり、カメラに収めたり、自慢話ができるといった具合で、恐怖を感じたものはいなかった」(報告書)
 

 ところが、30分ほどすると、テントの外に置いていたザックの中の食料をあさり出した。

 さすがにマズいと感じたメンバーは、クマの隙を見て、ザックをテント内に収容した。クマを追い払うためにたき火をし、ラジオの音量を上げ、食器を打ち鳴らした。
 

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2キロを追い続け、次々と襲撃したクマ