日本一の企業で働こうと三菱商事に入った。ローソンを日本一へ、それも規模だけでなく客の評価でもと思い、店頭を巡って提案を聴いて回っている(撮影/山中蔵人)
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 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2023年11月20日号より。

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 日本のコンビニ業界の売上高は2015年度に11兆円余りに達した後、前年比の伸び率は3%台、2%台、1%台と落ち込んだ。この間、アナリストやメディアなどに「コンビニ市場は成熟し、成長は終わった」との見方が広がっていく。

「そうなのか」。3%台に落ちた2016年度の6月に社長になって一瞬、そう思った。確かに人口は減り、同業者の出店争いは過熱気味で、来店客数も売り上げも増やすのは容易ではない。でも、すぐに思い直す。そして、一つの言葉を思い出す。

「百里の道を行く者は、九十九里をもって半ばとす」

 大阪府池田市の大阪教育大学付属池田小学校に通っていたとき、水野寿彦校長が毎週月曜日の朝礼で、全校生徒と唱和した言葉だ。

 原典の中国の古典『戦国策』では「百里を行く者は九十里に半ばとす」と、九十九里ではなく九十里とあるが、日本では九十九里と言う人が多い。

 事典には「100里の道は90里を行って、初めて半分が過ぎたと思うべきだ。最後の10里は難しい道で、事をなすには始めは簡単でも終わりは難しい」と解説され、最後まで気を緩めないようにとの教えだ、とある。

「コンビニ市場も、まだ、やれることはたくさんあるはずだ。店づくりや商品・サービスの提供は、99里どころか、まだ半分もきていないだろう。やり方を工夫して、ニーズを掘り下げれば、成長は可能なはずだ」

 そう、思い直した。

夕方以降の品ぞろえニーズを見込んで高成長につなげる

 2018年度、売上高は前年度比6.17%伸びた。業界全体では2.11%。成長の核は「夕方から夜にかけての品ぞろえの強化」だった。コンビニでは、売れ残っているおにぎりやサンドイッチを短時間で処分するので、夕方から夜にかけて品ぞろえが薄くなりがちだ。でも、仕事帰りのビジネスパーソンは、その時間帯に買いたいはずだ。読みは、当たった。

 翌2019年度は、新型コロナウイルスの感染拡大で、小売業界全体が大打撃を受けた。コンビニ市場の成長率は1.03%へ下がり、2020年度にはついに0.50%減とマイナス成長に陥った。でも、水野校長の訓辞は正しい、との思いは続く。「圧倒的な美味しさ」「人への優しさ」「地球(マチ)への優しさ」を掲げ、営業戦略を強化した。

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