スーパーの店頭で牛肉を試食販売し使った妻のレシピ
出向先で全国のスーパーが載っている本を買い、あいうえお順に電話を入れて、取引を申し込む。会ってくれるとなれば、北海道から沖縄までいった。塩コショウと店頭販売用の電気調理器などを持っていき、先方の精肉部長に頭を下げて店頭に立たせてもらい、エプロン姿で試食会も開く。小学校の同級生で結婚していた妻が、レシピをつくって応援してくれた。
3年間の出向から本社の畜産部へ戻ると、課長へ昇格する。
米インディアナ州の豚肉処理加工会社への3年弱の出向を終え、広報部に5年いて、2010年に小林健・新社長の業務秘書となって約4年、仕えた。社長は外国の国家元首との面談など、ほとんどの場に同席させてくれ、多くのことを学んだ。
2014年2月ごろ、社長に呼ばれて「ローソンへいってくれ」と言われた。本社ビルの地下にローソンの店があり、夕方に一杯やるときつまみを買いにいくこともあるので「何を買ってくればいいですか」と尋ねたら、「いや、そうではない。ローソンの本社へいってくれないかということだ」と言われた。正月に、あと2年一緒にやろうと言われていたので驚いたし、寂しさも湧いたが、「分かりました」とだけ答える。
課題は、冒頭で触れたように「もう成熟した」とされたコンビニのビジネスモデルを見直して、ローソンの収益を再起動するコトだった。
2016年6月、46歳で社長に就任。秘書として仕えた小林氏に報告のメールを送ると「毎朝、下っ腹に力を入れて会社へいくのだ。健闘を祈る」と返事があった。何があっても動じない準備を常にして、腹に力を入れて一日を始めろ、ということだなと理解した。
この教えを、胸にある水野校長の言葉の隣に置いた。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2023年11月20日号