エッセイスト 小島慶子

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】宮崎県高千穂町の「あまてらす鉄道」

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 最近、鉄道が好きになりました。旅先で乗るのが楽しい。きっかけは昨年乗った、とある可愛い列車でした。その名も「あまてらす鉄道」。宮崎県高千穂町の観光トロッコ鉄道です。廃線になった鉄道の線路を走る往復30分ほどのコース。これが地元の人々の思いのこもった、実に味わい深い鉄道だったのです。

 ピンク色のトロッコ列車は素朴な風情ですが、その名も「グランドスーパーカート」。豚骨スープのラード廃油から作った、香ばしいバイオディーゼル燃料で走っています(先進的!)。何より、景色が素晴らしい。深い谷を見下ろす橋の上から高千穂の峰々を見渡す、最高に気持ちの良い眺めです。運転士さんが鉄橋の真ん中で停車して、シャボン玉を飛ばしながらナイスなガイドをしてくれます。今は社員3人を含む10人ほどの体制だとか。私が乗った列車の愉快な運転士さんは、夜は地元で居酒屋さんをやっているそうです。トンネルの中では車体から天井に照明を当てて虹色ディスコ状態。なんだなんだこのかわいさは。

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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