世田谷区広報板に書かれたスローガン(撮影/写真映像部・佐藤創紀)
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 音楽やファッションなど、さまざまなカルチャーの発信地でありながら、古くからの住民も多い住宅地でもある東京・下北沢。2022年5月、線路跡地の開発で生まれた新しい街「下北線路街」は、高層ビルはひとつもなく、全国的に知られたチェーン店はごくわずか。シモキタらしさにあふれている。AERA 2023年11月13日号より。

【写真】一目見て緑が多い!下北沢駅付近から世田谷代田駅側を見た下北線路街

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 線路街の複合施設にもシモキタらしさが色濃く表れている。下北沢駅と世田谷代田駅のちょうど中ほどにある「BONUS TRACK(ボーナストラック)」は、赤いダルマが目を引く小さな商店街だ。個性豊かな13店舗に加え、コワーキングスペースやシェアキッチン、広場、ギャラリーまで備えた線路街を代表する商業施設になっている。企画・運営するのは19年に立ち上げられた散歩社で、各テナントは小田急と直接契約するのではなく、散歩社が選定してきた。取締役の内沼晋太郎さんはこう説明する。

「ボーナストラックは、下北沢らしい個人店がチャレンジできる場所として企画されたエリアです。小田急さんが直接契約するのが難しい個人店に声をかけ、一部は公募して、何かが新しく生まれる場、お客さんにとってもおもしろい場になるような店を集めました」

「長屋」をイメージ

 内沼さん自身、12年から下北沢で書店「本屋B&B」を経営してきた。開店当時、下北沢は賃料の高騰もあって個人店が挑戦できる下地が失われつつあったという。ボーナストラックは、多少賃料を下げてでも個人店がチャレンジできる「長屋」をイメージしている。

 ボーナストラックの開業は20年4月1日。直後に緊急事態宣言が発出されるなど新型コロナに翻弄されてきた。それでも、内沼さんは言う。

「下北沢はカルチャー感度の高い若者が遊びに来る街と思われがちですが、古くから住んでいる方々もたくさんいます。ボーナストラックはその両方にフィットする場にしたかった。コロナ禍でオープン当初に外から人が押し寄せなかった分、周辺住民の方々に向き合えたのが結果的に良かったのかもしれません。今はそれぞれが交わる場をつくれていると思っています」

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