50歳の男女のうち一度も結婚しない人の割合を意味する「生涯未婚率」。日本では年々上昇しており、最新の国勢調査によると男性が28.25%、女性が17.85%となっています。1990年の生涯未婚率は男性が5.6%、女性が4.3%だったことを見ると、この30年ほどでいかに独身者が増えたかがわかるのではないでしょうか。
しかし、いまだにシングルの人たちは、結婚すべきだと急かされたり、既婚者に比べて成熟していないというイメージを抱かれたりすることがあるようです。シングルでいることを今なお否定的な目で見ている人は「シングルという生き方がもつ豊かな可能性にまったく気づいていない」と指摘するのは、コロンビア大出身の社会学者エルヤキム・キスレフ氏。彼の著書『「選択的シングル」の時代 30カ国以上のデータが示す「結婚神話」の真実と「新しい生き方」』では、どうしたらシングルの人たちが社会の逆風に負けず、毎日の生活で幸福を得ることができるのかという問題について、数多くの先駆的な提案がおこなわれています。
同書の大きな特徴のひとつが、30カ国以上のデータ分析やインタビュー調査に基づく世界最新のシングル事情を紹介している点。アメリカ、中国、ドイツ、イスラエル、スウェーデンなど数多くの国のほか、日本についてもシングルが台頭する最先端の国としてたびたび触れられています。
たとえば、同書で引き合いに出されているのが、日本で2000年ごろに話題となった「パラサイト・シングル」なる言葉。30代になっても親と一緒に暮らしている独身者は、当時としては衝撃的な事実として注目を集めました。しかし、世界を見てみると、英語圏では「地下室の住人」(basement dwellers)、イタリアでは「バンボッチョーニ」(大きくなった赤ちゃん)など同様の意味を持つ言葉があり、日本に限ったものではないことがわかります。これらの言葉にはネガティブな意味合いが含まれますが、「彼らの真の優先事項をとらえたものではない」(同書より)と著者は言います。
「こんにちの日本の若いシングルの人々は、これまでとは異なる好みをもち、自分にとっての優先事項を配列しなおしたのだ。彼らは恋愛関係を始めるより前に、友人と時間を過ごしたり、キャリア上の目標を追い求めたり、ファッションの好みを追求したりしたいと考えている」(同書より)
この分析には、共感を覚える独身の人々も多いのではないでしょうか。そしてこうした傾向は、日本だけでなく世界中で見られるといいます。
「経済の変化・資本主義の大量消費主義の広まり」によるシングルの増加は、あくまでも現代の人々が結婚にあこがれなくなったメカニズムを語る上でのひとつの背景に過ぎません。同書では、ほかにもさまざまな観点から家族や結婚のあり方の変化について語られています。「結婚がもたらす『孤独』と『長期的リスク』」や「『幸せなシングルたち』が実践している6つのワーク・ライフ・バランス戦略」などは、シングルの人にはたいへん興味深いテーマではないでしょうか。
著者はこの先シングルの増加を留めることは不可能だとして、「私たちはこの現実を直視し、受け入れ、幸せなシングルの時代への道を開かなければならない」(同書より)と呼びかけます。
世界のデータや最新情報をもとに、「結婚したほうが幸せ」という価値観をフラットにする同書。独身でいることを希望しながらも、周りの声に悩まされたり自分の中で確信が持てなかったりする人にとって、明るい光が感じられる一冊になるのではないでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]