京都から函館へ目立たぬ服で隠密行動(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 豊橋で行われた私の講演会に極秘参加し、私を驚かせた堀井美香さんにリベンジするためだけに、函館で催された彼女の朗読会に潜入した前号の続きです。

 朗読会チケットは、旅の数日前にちゃんと購入。インターネット決済ですからバレません。もうこの辺からニヤニヤが止まりませんでした。

 衣装は、新宿を足が棒になるまで歩いて探したベージュのチェック柄ワンピース。私が絶対選ばない服です。とにかく目立たないことが重要で、これが意外と難しい。「変な服」や「ひたすら地味な服」なら簡単ですが、個を消し集団に埋没する服は難度高め。服装は人を表すと、実体験で学べました。そして私はジェーン・スーのオルターエゴ(別人格)となった彼女を「長谷川さん」と名付けました。

 弾丸旅行当日。変装を纏い、髪形もメイクも変え、眼鏡をコンタクトに付け替え、本来なら京都旅行を楽しむ予定だった友人と長谷川さんは、早朝のバスで伊丹空港へ。すべてがスムーズで、あっという間に新千歳空港に到着。まだ午前中です。昨日は大阪、今朝は京都にいたというのに!

 函館へは小型飛行機で移動。大型機にはない揺れすら弾丸旅行を盛り上げる演出のよう。大荷物は目立つため、空港で旅行バッグをコインロッカーへ。こっそり友人と変装写真を撮りあい、前日に京都で撮った写真を「まさにいま京都にいます」といった風情でインスタグラムに投稿するなど、隠密行動を満喫しまくる私。

イラスト:サヲリブラウン

 会場となった金森ホールには早めに向かい、後方の席を確保。観客はすでに集まり始めており、ポッドキャスト番組のグッズを持っている人もいましたが、9割はジェーン・スーという存在を認知しているであろう観客の誰ひとり、私だと気づく人はいません。無口な長谷川さんになりきってるからね!

 朗読会は、さすが堀井美香とスタンディングオベーションしたくなるような出来栄えでした。もちろん、小さな拍手しかしませんでしたが。目立つから。そして、最後の最後までバレなかった!

 終演後はすばやく会場をあとにし、少し離れた場所で「ミッションコンプリート!」と友人と喜びを分かち合いました。解放感にあふれ、人力車に乗って函館観光までしちゃった。あー楽しかった。後日談はポッドキャスト「OVER THE SUN」160回でぜひ聴いて!

AERA 2023年11月13日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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