私は父のことをほとんど知らないままでした。一緒に暮らしていたのに、たくさんドライブに連れて行ってもらったのに、いつも出張のお土産をくれたのに、父のことを知ろうとしませんでした。パパは最初からパパで、親になる前の人生や、子どもには語らない思いがあるなんて想像できなかったのです。でも50歳を過ぎて、父とあんな話もこんな話もしてみたかったなと、悔やまれることが多いです。
この頃は、月に一度は父の夢を見ます。旅番組を見ると、父にも見せてあげたいなあと思います。シルクロードが大好きだった父。今はどこにでも行けるからいいね、と心の中で話しかけています。そうやって少しずつ、親子の時間を取り戻しているのかもしれません。
※AERA 2023年11月13日号