冬に向け、感染症が広がる中、全国的に処方薬が不足している。特に枯渇しているのが、咳止めと抗生剤。医療現場や患者に不安が広がっている。AERA 2023年11月13日号より。
【写真】薬不足という深刻事態!不足している薬の引き出しには「×」の文字が
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「必要な薬が、注文しても入ってこない。大変な事態です」
大阪府の北原医院で院長を務める井上美佐医師が明かす。せき止めや抗生剤、解熱鎮痛剤を中心に、薬が不足しているという。最近、特に深刻なのがせき止めで、在庫がゼロという事態を防ぐために、できるだけ代替薬を確保するなど、綱渡り状態が続いている。薬が足りない場合、別のメーカーが作る同じ効能の薬を処方するなどして対応するが、薬が変わった後に体調の変化を訴える患者もいる。
「医薬品は、成分は同じでも、製造工程で使う添加物など、微妙な違いがあって、それが体質的に合わない場合もあります。また、同じ成分の代替薬がない場合には、別の成分で、同じ効能を持つ薬に変えざるを得ないこともある。成分が違うとなると、様子見の期間が必要になります」(井上医師)
必要な薬が届かない
新型コロナに加え、インフルエンザが例年にはないような早い時期に流行期に入るなど、感染症の流行が収まらない。発熱の患者が多くなる時期にもかかわらず、薬が足りていない実態がある。
「薬不足の対策として、厚生労働省から“処方量を最少日数に留めるように”との協力依頼が来ていますが、私たちは普段からむやみに必要量以上を処方していません。患者が増えた時の解決策にもならないし、例えばぜんそくや慢性気管支炎など、長期間にわたってせき止めが必要な人もいます。このまま薬不足が続けば、再診が増えたり薬代が上がったりなどで、患者に金銭的な負担をかけたり、体調の悪化をきたしたりすることが危惧されます」(同)