ビバリーヒルズの街角に設置された長テーブル。203脚の椅子にはハマスに誘拐されたひとびとの顔写真と名前を印刷したポスターが貼られている(撮影/長野美穂)

 ガザへの攻撃で米国内各地では、イスラエル、パレスチナの各支持者によるデモや追悼の意を込めた動きが見られる。AERA2023年11月13日号より。

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 ロサンゼルス(LA)のダウンタウンで数千人以上の規模のパレスチナ支援デモが行われていたのと同じ頃、LA郊外・ビバリーヒルズの街角の大通りに面した芝生の上では、白い長テーブルが設置され、イスラエル国内からハマスによって人質として連れ去られた人々の顔写真を貼り付けた203脚のいすが並ベられていた。設置したのはユダヤ教のラビ(宗教的指導者)のヨシ・クニンさんだ。彼は「一切のネガティブな感情はとりあえず横に置いて、人質になっている203人ひとりひとりの不在を、私たちは決して忘れていないという思いを伝えたい」と語る。

 赤ちゃんを含む老若男女の写真を一枚一枚じっくり眺めながら、ため息をついていたのはカナダ人のデイルさんだ。イスラエルのキブツ(農業共同体)内に住む友人が、ハマスの襲撃で10月7日に殺されたのだという。

「正直、友人を失ったショックとどう向き合えばいいのか、全くわからない。でも、今、私たちユダヤ系への憎悪があまりに強すぎて、悲しい気持ちを公に表現することすら怖いし、危険だと感じる」と語った。

 ハマスは、イスラエルのキブツ内の住宅に火を放ち、煙であぶり出されるようにして逃げる人々を殺害したと報道された。

「友人が最期は長時間苦しまずに亡くなったことを祈るだけ」と彼女は言う。人質のひとりである19歳の女性の笑顔の写真を指さしながら、「例えば、この彼女が一体何をしたのか。なぜ誘拐されなければならないのか。私には全く理解できない」。

 夕暮れの中、203脚のいすを静かに眺める人々が他にも数人ほどいた。大通りを通過する車からは、イスラエル支援のクラクションが聞こえるが、時にはやじも飛んだ。人々は用心のために、車列に決して背を向けないようにしていた。

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長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

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