エッセイスト 小島慶子
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 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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「私たちの声も取り上げよ」「フェアな報道を」。エジプト人記者のラハマ・ゼイン氏はCNNのカメラに向かって訴えた(写真:CNNのインスタグラムから)

 国連のパレスチナ視察に同行した米メディアCNNのリポーターに向かって、ラファの国境地帯で一人のエジプト人女性が英語で呼びかけました。「米国はイスラエルに白紙委任してパレスチナでの虐殺を容認している。あなた方は私たちの声を聞くべきだ」。

 リポーターは、ラハマ・ゼインと名乗る女性にマイクを向けました。「イスラエルによる不当な占領は70年以上になる。ガザはパレスチナ人にとって監獄で、水も手に入らない。出入りも許されず、暮らしは困難で人権を蔑(ないがし)ろにされている。イスラエルは繰り返し人権を叩き潰し国際法に反してきた。多くの西側メディアはアラブの人々の人間性の否定に加担してきた。ムハンマドと聞けばあなた方は震え上がる。何千人ものパレスチナの子どもが死んでも他人事だ。イスラエルはアラブ世界の分断を試み、アラブは無力であるかのように言うが、私たちは弱くない。エジプトはパレスチナの、アラブの側に立つ。彼らは従来の物語を変えようとしているのだ。これはあなた方(米メディア)の問題だ。あなた方は(世界がどのようであるかを物語る)語りを手にしている。国連を、ハリウッドを、世界をその語りで思うようにしてきた。私たちの声はどこに? 私たちの声も同じように聞かれるべきだ。あなた方の報道でアラブ人は人間性を損なわれ、馬鹿げた理屈で一括りにされ、傾聴されず、議論する余地すら得られない。イスラエルは声明で全てをハマスのせいにし、パレスチナ人は動物で、死ぬべきだと言っている。それがこの事態を引き起こしている。私たちの声も取り上げよ。フェアな報道を」。

 ラハマ・ゼイン氏はエジプトの記者で、人道支援団体と共に現地入りしていました。誰が世界を物語るのか、誰の声が無視されているのか。可視化されるべき視点が一つ、カメラの前で語られた瞬間でした。

AERA 2023年11月6日号