(c) Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.
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 フランス人夫婦アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)とオルガ(マリナ・フォイス)は都会からスペインの村に移住する。スローライフを目指し、村を活性化しようとしていた二人だが,隣人兄弟は彼らを歓迎せず、嫌がらせをするようになる。そんななか事件が起こる──。実事件を基にした物語「理想郷」。主役である俳優のドゥニ・メノーシェさんに見どころを聞いた。

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 本作は実際にあった事件を基にしています。ロドリゴ・ソロゴイェン監督はそこに田舎vs.都会、移住者と地元の人の軋轢など、どこにでもある深いテーマを見いだしました。私が演じたアントワーヌはインテリな元教師で、自分の信念から村を活性化する熱意を持ってやってきます。しかしそんな異邦人に対し、村人たちは緊張感を持ち、対立が生まれます。私の仕事は脚本や文脈に沿ってアントワーヌを忠実に再現し、役とともに生きることでした。実際、撮影をしながら私自身も恐怖を感じ、前半のクライマックスでは本当に意識を失ってしまったんです!

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 映画の前半はアントワーヌの、後半は妻オルガの視点から描かれます。前半には闘う男性の力強さが描かれ、後半では女性の力強さが描かれます。それは男性とは違う強さ──人の話を聞く力や許す力、耐える力といった強さです。それをとても美しいと感じました。

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 アントワーヌは村の風力発電誘致に反対したことで村人と対立してしまいます。一見エコロジーに思える風力発電ですが、たしかにさまざまな問題をはらんでいます。スペインの山間部には風力発電の風車が多数あり、夜には赤く光り独特な音を発します。まるでモンスターににらまれているような恐ろしい風景です。周辺の環境にも影響を与え、鳥たちも相当に怖い思いをしているはずです。

ドゥニ・メノーシェ(俳優)Denis Menochet/1976年、フランス生まれ。「ジュリアン」(2017年)などで評価を集め、本作では第35回東京国際映画祭の最優秀男優賞を受賞。11月3日から全国順次公開 (c) Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

 田舎vs.都会も難しい問題です。実は私自身、2020年に仏ブルターニュ地方に移住したんです。この映画の脚本を読む前でよかったのですが(笑)、最近村人に「この映画を観て、どうやってあなたたちを受け入れていいかがわかりましたよ」と言われました。映画は解決法を示すわけではない。でも映画が持つ「共感」という力の大きさを、身をもって感じました。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年10月30日号