広島・平和記念公園の片隅にたたずむ小さな塚を「原爆供養塔」という。1945年8月6日の原爆投下による死者のうち、無縁仏となった約7万人もの遺骨が納まる場所だ。
 本書は広島テレビ出身の記者による、供養塔をめぐるノンフィクションである。物語は佐伯敏子という女性を軸に展開される。敏子は原爆をきっかけに母や親戚を亡くし、死者に向き合いたいと昭和33年から長きにわたり供養塔の清掃を続けた。13年目には塔の合鍵を手渡されるようになり、塔内のノートをもとに遺骨の引き取り手を探し始める。彼女と出会った著者もまた、当時を知らぬ人間として「『ひとり』の死者に徹底して向き合わなくてはならない」と、納骨名簿を手に遺族探しを決意する。通名(日本名)と朝鮮名という二つの名前を持ち現在も遺族を探す在日韓国人の女性、本籍は沖縄にあれど軍人として広島で亡くなった男性……。名簿からは決してわからない数々のライフヒストリーが取材から浮かび上がる。戦後70年、原爆経験者が減少する中、資料価値は大きい。

週刊朝日 2015年6月19日号

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