長い相撲の歴史のなかでも大鵬は最高の天才でしたが、「柏鵬時代」と言われしのぎを削ったライバル・柏戸とは対照的に「型のない相撲」と批判されました。しかしむしろ、大鵬や藤井さんは「すべてが自分の型」と言えるでしょう。
藤井さんを見ていると、心から将棋が好きなことがわかります。以前、感想戦の終わりが伝えられているのに、藤井さんはずっと続きを考えていたことがありました。アメリカの作家ジョン・スタインベックは「天才とは、蝶を追っていつの間にか山頂に登っている少年である」という言葉を残しています。まさに藤井さんのことですね。
弱冠21歳。まだまだ強くなるはずです。「藤井時代」は続くでしょう。一方で、藤井さんを超える棋士の誕生にも期待します。現役の棋士は皆、打倒・藤井に燃えているはずです。そして、藤井さんに憧れて将棋を始める子どもたちも増えています。彼らの中から次の「規格外」がきっと生まれてくるはずです。
(構成/編集部・川口穣)
※AERA 2023年10月23日号