パレスチナのイスラム組織、ハマスの越境攻撃によるイスラエル国内の死者数は1200人(10月12日発表)。イスラエルのネタニヤフ首相が「ハマスを地球上から抹殺する」と宣戦布告し、緊張が高まっている。今後懸念されるのは、情勢の悪化による民間人の犠牲と別のパレスチナ自治区やアラブ世界への影響だ。AERA2023年10月23日号より。
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イスラエルはガザ空爆の度に「ハマスの拠点を攻撃する」としてきた。10階以上の住宅ビルがミサイルで丸ごと崩れ落ちるような攻撃が続き、市民の犠牲を増やしてきた。今回のガザ攻撃でも、アラビア語の衛星テレビメディアのアルジャジーラによると、12日までの6日間で6千発の爆弾が投下され、1400人以上が死亡し、そのうち半数は女性と子どもだという。
ネタニヤフ首相がいうように「ハマスの抹殺」を文字通り実行するとすれば、17年にイラクが米軍と協力して「イスラム国」を排除したモスルの掃討作戦の例がある。最初に徹底的に空爆し、都市の7割を破壊した後で、地上軍を入れて残党を排除する手法である。
ガザはモスルよりも人口が密集し、イスラエル軍に封鎖されているため逃げ場がなく、民間人の犠牲ははるかに増える。
ハマスの軍事部門の戦争方法は、ゲリラ戦と自爆攻撃を合わせたものである。ハマスは越境作戦とともにイスラエルへの報復の準備もしているはずだ。イスラエル軍が地上部隊を入れて市街戦となれば、ハマスの戦士がイスラエル兵を建物に誘いこんで、建物ごと爆破するなど、様々な戦法を駆使し、イスラエル軍の犠牲者もかなりの数字に上るだろう。
イスラエル軍としても簡単にハマス制圧・排除とはならずに泥沼化する可能性がある。町は廃虚となり、おびただしい市民が犠牲になり、長期化するという最悪の事態である。
アラブの春第2弾も
ガザ情勢が悪化した時に、波及する方向は三つある。
第1は、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区で第3次インティファーダ(反占領民衆蜂起)が起こる可能性である。ハマスが越境攻撃にでた背景には、西岸でのユダヤ人入植地問題の悪化がある。ネタニヤフ政権が入植地拡大を進め、特に今年になって、入植者たちが近くのパレスチナの村を襲撃したり、放火したりする暴力事例が多発している。