10月10日、パレスチナ自治区へのイスラエルの空襲後、破壊された建物の瓦礫の中を歩くパレスチナの子どもたち(写真:アフロ)

 イスラエルは00年に始まり05年には下火になった第2次インティファーダで自爆テロが横行したことから、イスラエル本土と西岸の間に500キロの分離壁を建設した。

 今回、ハマスがガザから越境作戦を実施したことは「分離壁による平和」の終わりを意味し、西岸でも同様の試みが始まる可能性がある。

 第2の波及は、北でイスラエルと国境を接するレバノンのシーア派組織「ヒズボラ」の参戦である。ヒズボラの背後にはイランがおり、イランはハマスに資金や武器を支援してきた。イラク戦争後にイラク、シリア内戦でシリアと勢力を伸ばし、レバノンまで手が届いた。ガザ情勢の激化に乗じて、ヒズボラ・イランが北の国境を脅かせばイスラエルの脅威となる。

 第3はアラブ世界への波及である。以前からイスラエルと国交正常化をしているエジプト、ヨルダンは、正常化後も、国民の間に反イスラエル感情が強い。すでにヨルダンの首都アンマンでは道路を埋めるガザ支持デモが始まった。エジプトでも13年の軍事クーデター以来の経済状況の悪化や言論統制の強化で、国民の不満は強く、ガザ危機が政治不安のきっかけになる可能性もある。

 20年にイスラエルと国交正常化をした湾岸のアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、さらに正常化間近とされるサウジアラビアでは、ガザ危機が深まれば対イスラエル政策の見直しを迫られる。

 パレスチナ人とはパレスチナ地区に住むアラブ人のことで、ガザから報道を続けるアルジャジーラとアルアラビアという2大アラブ衛星テレビによって、パレスチナ人の悲痛な叫びがアラブ世界にアラビア語で拡散し、アラブ人を動かす。そうなれば、イスラエルがこの数年追求してきた「パレスチナ抜きの国交正常化」の流れは崩れることにもなりかねない。

 11年の「アラブの春」では、チュニジア、エジプト、リビアなど世俗主義の国々の独裁者が倒れた。湾岸の石油王国でも若者たちのデモはあったが抑え込まれた。もし、今後のガザ戦争で、湾岸の石油王国があいまいな態度をとり続ければ、民衆の怒りが噴き出して、湾岸地域を舞台に、「アラブの春:第2弾」となる可能性もある。

(中東ジャーナリスト・川上泰徳)

AERA 2023年10月23日号より抜粋

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