人工呼吸器や胃ろうなど医療的ケアが必要な江利川さんの長女。「我が家に限らず、保護者の慢性的な睡眠不足は深刻な問題です」と江利川さんは語る(撮影/加藤夏子)
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「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 先週、自民党の野田聖子・衆院議員にお会いしました。国会議員の先生は、大きな組織や議員さんなどのご紹介がないとアポイントは取れないと思っていたので、突然お声かけいただいてお会いできることになり、驚きました。野田さんご自身も医療的ケアの必要なお子さんを育てていらっしゃって、当事者である私の話を聞きたいと思ってくださったとのことでした。私は国会議事堂前駅で降りるのも議員会館へ行くのももちろん初めてで、お作法もよく分からない中、ひとりで野田先生のお部屋へ伺いました。

 野田さんはとても豪快で気さくで温かく、話しやすい雰囲気を作って下さったので、私はざっくばらんに「医療的ケア児を育てる母」と、ソーシャルワーカーや社会福祉士などの「専門職」の部分を半分ずつ混ぜて、さまざまなお話をさせていただきました。

大きな課題は「18歳の壁」

 話の内容は、大きく分けると、現在私が大学院で研究している医療的ケア児(者)を育てる家族の負担感に関連する要因や、小児科から成人科への移行期の困難さ、インクルーシブ教育についてです。特に特別支援学校を卒業した18歳以上の方が利用できる社会資源(日中に通う場所や短期入所施設など)が不足する“18歳の壁”問題は、全国的にも非常に大きな課題だと思う、と強くお伝えしました。

 この背景には、医療技術の進歩にともない新生児の救命率が上がり、重症心身障害児が「大人」と言われる年齢になることも多くなり、需要はどんどん増えているのに社会資源の拡充が追いつかないという理由があります。

 さらに、「専業主婦の母親が子どもを育てる」という概念は日本でも少しずつ無くなりつつあり、もし、現在働きながら障害のある子どもを育てている家庭のお子さんが18歳になり、日中過ごす場所が見つからなかった場合にどうするのか?という問題もとても深刻です。この問題には、現在の社会情勢から夫婦共働きでないと生活ができない家庭があることや、女性の社会進出により育児のためにキャリアを諦めなくなった世の中の風潮も複雑に絡んでいます。

 この10年間は主に未就学の医療的ケア児の受け入れや認知度をあげる取り組みをしてくださったと思いますが、次の10年は18歳以降の障害者の生活に着目することがとても重要だと思うとお伝えし、私もこの研究を続けていきたいとお話させていただきました。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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歩けない息子……でも教育を受けさせたかった