高橋弘樹(たかはし・ひろき)/映像ディレクター。株式会社tonariCEO。ABEMAにも在籍し、企画した「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」が話題。著書に『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)など(撮影/写真映像部・上田泰世)
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 読書の秋。テレビや映画、YouTubeなど主に映像系の分野で活躍する本好き3人がセレクトした、悩みに効き、人生を豊かにする本を紹介する。3人目は映像ディレクターとして注目を集めるtonariCEOの高橋弘樹さん。AERA2023年10月9日号より。

【写真】高橋弘樹さんが影響を受けた本がこちら

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「今回挙げた5冊を改めて眺めてみると、“人生ままならない”系の本ばかりですね」

 そう笑う高橋弘樹さん。ニュースバラエティーYouTube「日経テレ東大学」プロデューサーとして登録者100万人超えまで育てたが、その終了を機にテレビ東京を退社。今年3月に自身のビジネス動画メディア「ReHacQ-リハック-」を立ち上げると、わずか半年で登録者数47万人に。今あらゆる業界から注目されている映像ディレクターだ。

 最先端の動画メディアで活躍する高橋さんがこよなく愛する作家の一人が永井荷風だという。

「生き方そのものに憧れますね。私自身散歩が好きなんですが、永井荷風も興味ある町をぶらぶら歩いて取材してはそこで得たものを小説に書き生計を立てていた。晩年まで創作を続けていますし、僕もそんな作り手になりたいな、と」

 そんな荷風作品の中でも特にお気に入りが『※ぼく東綺譚』。※さんずいに墨の異体字

「内容は一言で言うと、おじさんが東京の向島あたりをぶらぶらしていたら娼婦とばったり会って恋をする、というしょうもない話です。どこか荷風自身っぽさのある主人公ですが家庭も、不意に訪れた恋もままならない。それでも永井荷風の筆の力をもってするとすごくピュアだし、舞台となっている溝川沿いの家や当時の風俗を美しく見せる文章は本当にすごいです」

市井の人に興味が

 高校・大学時代は中国に興味を持ち、「漢詩」の世界にもひかれていたという。中でも李白はYouTubeのチャンネル名にも引用するほど思い入れが。

「李白は才能がありながらも、その人生は結構不遇です。辺境の地に飛ばされたりする中で様々な詩を作っています。『李白詩選』は訳者の松浦友久さんの訳が素晴らしく、漢文が読めなくても楽しめます。私の好きな詩の一つに『月下独酌』というものがあるのですが、これは春の庭で一人酒を飲んでいる李白が、自分と影と月を友にして3人で酒を飲んだよ、といった内容です。孤独や絶望の中に楽しみを切り取る手法はとても李白らしい。人間誰もがいい時も悪い時もあるじゃないですか。李白の世界観を知っていると人生の慰めになります」

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