2020~2022年のそれぞれの年間件数は、心肺停止で搬送された年間件数の約1%に相当します。

 東京消防庁の場合、心肺蘇生を中止する条件は、以下の四つです。

  • ACPがおこなわれた成人で心肺停止状態であること
  • 傷病者が人生の最終段階にあること
  • 「心肺蘇生を望まない意思」は傷病者本人の意思であること
  • ACPで想定された症状と現在の症状とが合致すること(外傷など、ACPで想定された症状と違う場合は該当しない)

 救急隊は、家族などから口頭または書面で「心肺蘇生を望まない」ことを伝えられると、かかりつけ医に連絡をとって本人の意思であることを確認し、かかりつけ医から中止を指示された場合に、心肺蘇生を中止することができます。

 心肺蘇生が中止された例に、次のようなものがあります。

 高齢男性が自宅のトイレ内で倒れ心肺停止となり、それを発見した娘が慌てて救急要請しました。ところが到着した救急隊に、妻はACPをおこなっていたことを口頭で伝えました。隊員が心肺蘇生をおこないつつ、別の隊員がかかりつけ医に電話したところ、かかりつけ医から、ACPをおこなっていること、心肺蘇生の中止の指示、20分程度で到着し引き継ぐことを聞き取りました。そこで、救急隊は心肺蘇生を中止し、到着したかかりつけ医に引き継ぎました。

 心肺蘇生を中止したあとの引き継ぎには、以下の2通りの方法があります。

・およそ45分以内にかかりつけ医が到着できる場合は、救急隊はそこで待機し、かかりつけ医に引き継ぐ

・およそ12時間以内にかかりつけ医が到着できる場合は、家族等に引き継ぎ、救急隊は引き揚げる

 かかりつけ医と連絡がとれないケースには、次のようなものがあります。

 がんを患っていて自宅での看取りを希望していた高齢男性が、21時ごろ、心肺停止状態となり、家族がかかりつけ医に連絡しました。しかし応答がなく困ってしまい救急要請。家族の話を聞いた救急隊が、かかりつけ医に複数回電話したものの連絡がとれなかったため、受診歴のある救急病院に搬送しました。

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導入時、かかりつけ医に連絡がとれないのではないか懸念