救急隊がかかりつけ医に連絡したケースのほとんどで、中止の指示が出された

 塩野目さんは「導入時、かかりつけ医に連絡がとれないのではないか、また現場に来られないのではないかが、懸念されていました」と言います。

「スタートから2022年12月末までの約3年間で、心肺蘇生を望まない意思が示された367件のうち、かかりつけ医に連絡がとれなかったのは6件だけで、どの時間帯においても、ほとんどはかかりつけ医に連絡がとれました。また、心肺蘇生が中止されたのは348件で、家族への引き継ぎが85件、かかりつけ医への引き継ぎが263件と、多くはかかりつけ医に引き継ぐことができました。かかりつけ医の皆さんが熱心に取り組まれていることがこれらの数字に表れていると思います」(塩野目さん)

 救急車を呼んでしまった理由では、「慌てた」が約40%と最も多いですが、「心肺停止状態ではなかった」「ACPをおこなっていることを知らなかった」などのケースもあります。

 全国的に見ると、心肺蘇生を望まない意思が示された場合の対応方針を定めている消防本部は、2019年には315本部(全体の43.4%)でしたが、2021年には446本部(61.6%)と、2年間で131本部増加しています(各年8月1日現在。総務省消防庁「第2回救急業務のあり方に関する検討会 令和3年11月30日」。参考資料「傷病者の意思に沿った救急現場における心肺蘇生」から)。

 定められた対応方針の内容は、①心肺蘇生を中止または中断できる、②心肺蘇生を継続する、③その他に分けられ、2021年には、①が204本部(45.7%)、②が207本部(46.4%)でした。

 ACPをおこなっていても心肺蘇生の継続を基本とする地域では、慌てることのないように、関係者全員がACPを共有できるように、看取りに向けた準備や心構えがより重要になるようです。

(取材・文/山本七枝子)