みなさんは、最近読んだ本の内容を覚えているでしょうか。



 読んでいる最中にはさまざまな発見があったにも関わらず、しばらく日にちが経過すると、記憶に残っているのは面白かったという漠然とした印象だけ。具体的にどのような箇所が、如何に面白かったのかと問われると答えに窮してしまう、といった苦い経験に心当たりのある方も多いかもしれません。



 精神科医で作家の樺沢紫苑さんは、そのような状況について、書籍『読んだら忘れない読書術』の中で、「覚えていない、つまり『記憶』に残っていないということは、それは『知識』としてあなたの中に定着していないということ。もっといってしまえば、その読書は何の役にも立っていない、ということと同じ」だと指摘します。



 時間と労力を注ぎ、せっかく読書をしたのならば、少しでも自分の血肉としたいもの。ではいったい、記憶にしっかりと残り、知識として定着する読書をするためには、どのような点に気をつければ良いのでしょうか。



 本書では、自ら月に30冊もの本を読むことを30年以上続け、なおかつ年に約3冊のペースで本を出版しているという、いわば本のことを知り尽くした樺沢さんが、読んだつもりで終わってしまわないための読書術、その方法を具体的に指南してくれます。



 しかし、そもそもなぜ読書をするのか、という疑問を持たれている方もいらっしゃるかもしれません。



 樺沢さんは精神科医の立場から、読書の効果のひとつに、ストレスや不安を解消できるという点があることを指摘します。



 不安とは、脳の扁桃体という部分が興奮することによって引き起こされるもの。ストレスに長期にさらされたために、扁桃体の興奮のスイッチが持続的にオンになって戻らなくなってしまった状態が「うつ病」なのだそうです。



「逆にいうと、『扁桃体の興奮』を鎮めれば、不安を減らせるということです。脳機能イメージングを使った研究によると、『言語情報』が脳内に入ってくると、扁桃体の興奮が抑制され、それにともないネガティブな感情は静まり、気分も改善され、決断能力が高まることが観察されました」(本書より)



 身近な例としては、子どもがケガをしたときにかける「痛いの痛いの飛んでいけー」というおまじない。このおまじないをかけると、なぜか痛みが軽減するのは、「言語情報の流入による不安の除去」の結果でもあるのだそうです。



 脳への言語情報流入という点からも、ストレスや不安を解消することのできる読書。さらに、こうした点だけに留まらず、記憶に残る読書術は、時間術、文章術、集中力をはじめとする、あらゆる仕事術やスキルとも深く結びつき、自己成長や人生を変えることにさえにつながるのだといいます。



 読書のもたらしてくれる数々の効用。みなさんの読書は、「読んだつもり」で終わることなく、その効用を享受できているでしょうか。