『久米宏です。 ニュースステーションはザ・ベストテンだった』     久米宏著
朝日文庫より十月発売予定

 久米宏は罪深い――。

 そう僕は思っていた。なぜならテレビのニュースを「わかりやすいもの」に変えてしまったからだ。それまでニュース番組は視聴率競争とは無縁のものだった。そもそも数字が獲れる発想はなかったのだ。そんな中、1985年に始まった久米宏がキャスターを務める『ニュースステーション』は、その「面白さ」で高視聴率を獲得。他のニュース番組も視聴率獲得を目指すようになった。

 本作は、「『土曜ワイドラジオTOKYO』『料理天国』『ぴったしカン・カン』『ザ・ベストテン』『おしゃれ』『久米宏のTVスクランブル』……。そのどれ一つが欠けても『ニュースステーション』は生まれなかった」と綴られているように、いかにして革新的なニュース番組『ニュースステーション』が生まれたかが、彼の経歴とともに詳細に描かれている。その語り口はテレビやラジオそのままで軽妙洒脱。実にわかりやすい。何しろ「最後の『簡単にまとめてみる』をお読みいただくと、一瞬にして本書の内容がわかります」と悪戯っぽく注釈されたエピローグで端的に本書の内容をまとめられてもいるのだ。しかし、それは久米宏の“罠”だ。そこだけを読んでわかった気になってはならない。わかりやすさの本質は単純化ではなく実は細部にこそある。その構造は本書もニュース番組も同じだ。

 ラジオ番組のための「売名目的」でテレビに出始めた久米。テレビのほうに重心を移す転機となった『ぴったしカン・カン』で「『素の表情』とは何かを考え始め」、「『ニュースを伝えるときの表情はどうあるべきか』という問いに」繋げていく。また、「僕にとって『ザ・ベストテン』は時事的、政治的な情報番組であり、のちの『ニュースステーション』のほうがニュースを面白く見せることに腐心したぶん、ベストテン的という意識が強かった。二つの番組は、僕の中で表裏の関係をなしていた」と明かされている。

次のページ