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 2011年11月19日、午前5時22分。双極性障害(躁うつ病)を患う黒人男性ケネス・チェンバレン(フランキー・フェイソン)は就寝中に医療用通報装置を誤作動させてしまった。通報を受け白人警察官たちが駆けつける。90分後、悲劇が起きた──。実際の事件を描いたノンフィクション・サスペンス「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」。脚本、そしてプロデューサーも務めたデヴィッド・ミデル監督に見どころを聞いた。

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 私は自閉症スペクトラムの当事者であり、特別支援が必要な子どもたちの教師として長年働いてきました。そうした子どもたちとのコミュニケーションで問題が起こったとき、彼らを落ち着かせ、尊厳を保ったやりかたで安全に解決できることもあれば、最悪の事態に発展してしまう状況も見てきました。まさにこの事件のようです。私は数年前にこの悲劇を知り、非白人や低所得者のエリアでの警官の法執行の仕方など多くの課題を含んでいると感じました。遺族への取材や実際の音声記録、警察の報告書などをもとに創作しました。

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 ケネスが素直にドアを開けていればこんなことにならなかったのでは、と思う方もいるでしょう。しかし彼は双極性障害を患っていました。彼にとって警官がドアを叩く音や怒声がどれほどの恐怖に感じられるのかを観客のみなさんにデモンストレーションしたかった。そしてこのような悲劇を防ぐためには何ができるだろうかという問いかけをしたかったのです。

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 登場する3人の警官のなかで「彼に障害があるなら待つべきだ」と理解をみせる人物がいます。彼らはいずれも現場にいた12人の警官を集約させた架空の人物ですが、音声記録では敬意を持って彼に辛抱強く話しかけている警官もいました。いま市によってはメンタルに問題を抱えた人々への対応を学ぶプログラムを実施しているところもあります。現場にまずソーシャルワーカーやセラピストを派遣するなど改善も見られます。

デヴィッド・ミデル(監督・脚本・プロデューサー)David Midell/障害のある子どもや大人のためのセラピストを経て現職。本作では俳優モーガン・フリーマンが製作総指揮を担った。全国順次公開中 (c) 2020 KC Productions, LLC. All Rights Reserved

 そして8月、事件から12年ぶりに市が警察の非を認め遺族に和解金500万ドルを支払いました。大きな一歩だと思います。アメリカではあまりにも長い間「警官はなにをやっても許される」雰囲気があった。道のりはまだ遠くとも歯止めをかける動きは起きています。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2023年9月25日号