リーグ優勝が決まり、駆け寄る選手たち。昨年の「村神様」のような飛び抜けた成績をあげた者はいないが、チーム力で他球団を圧倒した

 15年ぶりに帰ってきた65歳の指揮官が、タイガースを2005年以来のリーグ優勝に導いた。独特の“岡田節”と確かな采配で猛虎を復活させ、ファンのハートをがっちりつかんだ。AERA2023年9月25日号より。

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「2008年も独走していながら優勝を逃しましたから、そんなにうまくいかないだろう、油断できないなとは思っていたんです。でも、今年は違った! 岡田(彰布)監督の『アレ』が効いたんでしょう!」

 両親の影響で物心ついたときから阪神ファンの男性(54)は興奮気味に語った。自宅でテレビ観戦し、優勝を見届けると母親(87)と「六甲おろし」を熱唱した。15年前、2位の巨人に最大13ゲーム差をつけて独走しながら大逆転された悪夢を忘れさせる「アレ」の達成だ。

「ちょっと勝ちすぎた」

 阪神タイガースが14日、本拠・阪神甲子園球場で宿敵巨人を破り、18年ぶり6度目のリーグ優勝を決めた。胴上げで6度、宙に舞った岡田監督は試合後のインタビューで、笑顔で語った。

「今日で『アレ』は封印して、みんなで『優勝』を分かち合いたい」

 岡田監督が優勝を「アレ」と表現し始めたのは、オリックス監督時代だ。2010年、交流戦の優勝を争う中で、選手が意識して緊張しないように「アレ」と言い換えるようになった。それが功を奏したか、オリックスは見事に優勝。15年ぶりに阪神を率いることが決まった昨年10月の就任会見でも、こう語った。

「はっきりと『優勝します』とはよう言わないですけど、僕はずっと、優勝は『アレ』しか言っていなかったので。シーズンが終わる頃には楽しみにしてもらったらいいと思いますね」

 選手たちも次々と口にしだし、今シーズンのチームスローガンも「A.R.E.」に。それぞれ、「Aim(明確な目標)」「Respect(野球というスポーツや諸先輩方に対して敬う気持ち)」「Empower(個々がさらにパワーアップ)」の意味が込められているが、阪神の公式ホームページにはこうある。「チームの最終目標にある『アレ』を目指していく強い想い」

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秦正理

秦正理

ニュース週刊誌「AERA」記者。増刊「甲子園」の編集を週刊朝日時代から長年担当中。高校野球、バスケットボール、五輪など、スポーツを中心に増刊の編集にも携わっています。

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