弱点もある。じつは本作の森監督は「A」などで知られる著名なドキュメンタリー作家。そんな監督がどのようなドラマを作るのか、注目が集まった。

 その観点で観ると、作品はあまりに「エンタメ」に寄り添っていた。福田村事件の記録はほぼ残されていない。だからやむをえない部分はあるが、あまりに創作が多い。在郷軍人の描写も類型的だ。群集心理の怖さを伝えるためには、もっと淡々とした、それこそドキュメンタリー的な突き放したカメラのほうがよかったのではないか。実際パンフレットを読むと、スタッフ内で意見の齟齬があったことも窺える。

 とはいえ繰り返すが、「福田村事件」が近代日本の闇を抉った重要な試みであり、必見であることは変わらない。本作に続き他の闇もどんどん映画化されるべきだと思う。

◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

AERA 2023年9月25日号

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