近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師

 ネズミは寿命が1~2年ですが、ハダカデバネズミの平均寿命は28年だといいます。げっ歯類としては異例的な長さで、アンチエイジング研究で注目となっています。近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が、最新の研究結果をもとに解説します。

【写真】長寿で老けないハダカデバネズミはこちら 平均寿命28年と10倍長生き

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​ みなさんはハダカデバネズミという動物をご存じでしょうか? かく言う私もアンチエイジングの研究に携わるまでは聞いたこともない動物でした。

 ハダカデバネズミは、ほかのネズミなどのげっ歯類と比較して非常に長寿な生物です。通常、大型の動物ほど寿命が長いと考えられています。例えば、野生の象は70年ほどの寿命があるといわれています。一方、ネズミは寿命が1~2年ですが、ハダカデバネズミはその例外です。体長わずか10cmの彼らの平均寿命は28年であり、げっ歯類としては異例的な長さとなっています。同じネズミであるにもかかわらず10倍長生きします。

 人間で考えてみると、今の10倍ですから800歳まで生きる計算となります。かなりの驚きです。さらに、ハダカデバネズミは老化の兆候が生存期間の8割まで見られず、超高齢になって初めて老化が進行する特徴を持っています。全然老けないのです。

ハダカデバネズミ(写真/Getty Images)

 こんなハダカデバネズミですので長寿の秘密が研究されています。特に注目されているのは、がん抑制や細胞周期に関与する特殊な遺伝子の存在です。これらの遺伝子は、がんや老化への耐性に関与していると考えられています。

 さらに、ハダカデバネズミは細胞分裂や代謝の遅さ、心拍数の低さなど、さまざまな特性が長寿の要因として注目されています。これらの特性は細胞のダメージ修復能力や酸化ストレスへの抵抗力などに関連しています。

 最近の研究で、ハダカデバネズミに関する興味深い発見がありました。ハダカデバネズミが産生する高分子量ヒアルロン酸には、細胞保護特性があります。この高分子量ヒアルロン酸が長寿の秘訣となる可能性が報告されました。ヒアルロン酸は美容の分野では広く知られているので一般の人にもなじみのある成分でしょう。ヒアルロン酸は、私たちの体に存在する非たんぱく質成分の一つです。​細胞外マトリックスの一部として機能し、組織の特性や細胞との相互作用に影響を与えます。

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大塚篤司

大塚篤司

大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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ハダカデバネズミが産生する高分子量ヒアルロン酸