松濤から道玄坂方向に抜けるあたりで真っ白で背の高い塀に気づいた。今年はじめに55年にわたる歴史に幕を閉じ、解体中の東急百貨店を蔽(おお)う壁だった。かつて馴染みだったビルは包帯が巻かれているみたいだった。ここにはオーチャードホールも併設されていたが、何年か前、このホールで行われた、大沢たかおさんが機長だった番組『ジェットストリーム』コンサートで鳥山雄司がギターを弾いてくれたことを思い出した。
時代は変わり、夜の渋谷もインバウンドの若いバックパッカーがあちこちにいる。でも、かつての思い出は消えない。ターンテーブルの上でレコードがくるくると回るように音楽はいつでもそこにいて、それぞれの記憶に結びついたあの頃のメロディーを奏でてくれる。
井の頭線に乗った僕はスマホを取り出し、イヤホンを耳につけ、鳥山雄司がロンドンのロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と演奏した『An/Evening/Calm』を繰り返し聴いた。